聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!
――先輩怒ってる?どうしたんだろ。
夏樹の冷ややかな声は、建屋の前に停められているワゴン車の向こうから聞こえる。
美桜は、思わずその車の影に身を隠した。
――やば。これじゃ完全に盗み聞き…。
でも今更動くなんて、と考えているうちに、車の向こう側で会話が進んでいく。
「堀越君の事がずっと好きだったの。彼女がいないなら…付き合ってください。」
聞こえてきた声は、明らかに女子の声。
可愛らしい声はかすかに震えていた。
「悪いな。今俺、好きな子いるから。」