聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!


「次の方ー!どうぞ。」


スタッフに呼ばれ、2人は最後に目を合わせて微笑み合ってから、スライダーの前まで歩み寄る。


「はい、ではどちらが前に乗りますか?」


スタッフから尋ねられ、矢嶋が「橋本ちゃん、どっちがいい?」と言って菜々を見る。


「えーっと…後ろがいいです。」


小柄な菜々と、高身長な矢嶋。
バランス的には菜々が後ろの方がいいだろう。


「はい、では彼氏さん、こちらに座っていただいて、彼女さんはこちらに。」


――か、彼氏…。


菜々はチラッと矢嶋を見たが、矢嶋は特に気に留めていない様子で、ボートの前側に座った。


菜々がその後ろに座る。


鍛えられ、筋肉が浮き出ている腕。


無駄のない逞しい背中。


目の前にある矢嶋の背中を見つめながら、菜々は自分の心拍数が上がるのを感じた。


――このドキドキって、スライダーを滑る前のドキドキ?それとも…

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