聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!
ワイワイと騒がしく車内が盛り上がる中、神崎が菜々にヒソヒソと話しかけてきた。
「ねね、せっかくだから、橋本ちゃんの恋バナとか聞きたいんだけど!どう?好きな人とかいないの?」
「え!?イキナリですか?」
菜々が慌てていると、神崎がギロッと、座席の隙間に目を向けた。
「…ちょっと、キャプテン!福井くんも!!何聞き耳立ててるんですか?」
座席の上から、後ろをのぞきこみ、2人を上からつついて盗み聞きを制した。
「あら、バレちゃった。」
キャプテンで3年の星原は、テヘッと言わんばかりのおとぼけ顔で誤魔化す。
福井は、菜々の隣のクラスの生徒だ。こちらも、先程聞き耳を立てていたことを誤魔化すようにそっぽを向いている。
「もー、落ち着いて喋れないじゃん!ね?」
神崎が菜々に同意を求めてきたので「ですね」と返しながら、笑った。
「なになに?なんの話してるの?」
通路を挟んで横の席に座っている2年の望月が、神崎に話しかける。その横で、相良が座ってこちらに目を向けている。
菜々と目が合うと、にっこりと笑い返してきた。
ドクン、と心臓が脈打つ。
――相良君、私の事、気にしてくれてるのかな?
その間、神崎は望月に向かって「もっちーには教えませーん」と言い、望月は「ずりー!教えろー!」等と言って軽くケンカしていた。