聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!
福井は菜々の横に立って釣り竿の使い方を教えてくれているが、全然頭に入ってこない。
――福井君と離れたいけど…。
「橋本!どう?釣れそう?」
そう言って声を掛けてきたのは、相良だった。
「相良君…」
菜々の複雑な表情を見て、相良は何かを察したようだ。
「福井ー。ここ、岩場ばっかりで初心者向けじゃないんじゃないの?」
「そ、そうか?」
福井は少し慌てた様子でそう返す。
相良は、もともと自分がいた場所を指差し「やっぱあっちがいいって。ほら、また釣れてる。」と言い、菜々と福井に、皆がいる場所へ戻るよう促した。
福井は渋々、といった様子で皆が集まっている場所へ移動した。
菜々も、福井と相良の後ろについて、移動する。
「大丈夫だった?」
相良が福井に気づかれないようにこっそりと菜々を振り返って尋ねてきた。
菜々もこっそりと返事をする。
「助かったよ。ありがとう。」
その言葉で、相良はホッとした表情で笑うと、前を向いて、部員達が集まっている元の場所へ駆けていった。