聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!
――相良君に手を握られた時は、嫌なんて思わなかったのに。
相良と初めて話した、サッカーボールが手に当たったあの日。
指の具合を確認するために、相良は菜々の手を取った。
一瞬で頬に熱が集まり、体全体が熱くなるのを感じたことは、今でもはっきりと覚えている。
福井に手を重ねられた時の感覚とはまるで違う。
――きっとこれが、好きって気持ちなんだろうな。
そう考えながら、ふと矢嶋の顔も浮かんだ。
――そう言えば、この前プールで矢嶋先輩に手を引かれた時は、嬉しかったな。
――矢嶋先輩といると安心するし、たまにドキドキもある。けど、相良君といると、ドキドキしてばっかり。…何が違うんだろ。
「おー、すげー!いいサイズですね!」
先輩の釣り竿にかかった魚の大きさを見て、相良は楽しそうに皆と笑い合っている。
爽やかで、嫌味がなくて、何事にもひたむきで、真っ直ぐで。
話せば話すほどに、彼の好感度が上がっていく。
――相良君と友達以上になろうって決めたけど、どうしたらいいんだろ。そう言えば、相良君に好きな人がいるのかとか、聞いたことなかったな。