聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!
「てか相良って、他校に彼女いなかったっけ?」
「え!?マジ?」
思わずその場で固まってしまった。
――彼女、いたんだ。
ショックな気持ちと、やっぱりという気持ちが入り交じる。
涙…は出てこない。まだ信じられない気持ちでいた。
――ひとまず帰ろ。帰ってからちゃんと自分と向き合って気持ちの整理を…
「橋本ちゃん?」
振り向くと、そこには矢嶋が立っていた。ちょうど陸上部の部室から出てきたところのようだ。
「矢嶋せんぱ…」
そう声に出した途端、サッカー部の部室の中から足音が聞こえ始めたので、菜々は急いで矢嶋のもとへ向かう。
「先輩!ちょっと隠れさせてくださいっ」
小声でそう言うと、菜々は矢嶋の横をすり抜け、陸上部の部室に身を隠した。