聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!
図書室に入り、自習スペースの方を遠くから眺めてみると、やはり人が多かった。
――うーん、どの机も空いてなさそうだなぁ。
今日は諦めて家に帰るか、と思って後ろを向いた途端、立っていた生徒にぶつかりそうになった。
「あ、す、すみませ――」
そう言って、見上げると、堀越夏樹が驚いた顔で美桜を見下ろしていた。
フッと不敵な笑みを浮かべると「よ、レースちゃんも自主勉?」と尋ねてきた。
「レ、レースちゃんって!…その呼び方、やめてもらえません?」
美桜は、ヒソヒソ声で訴えた。
「え、嫌だった?俺は気に入ってるんだけど。」
夏樹は、抗議されるなんて心外、といった表情だ。
「じゃあさ、ピンクちゃんとレースちゃんなら、どっちがいい?さすがにパンツちゃんってのは――」
夏樹が涼しい顔をしてそう尋ねてきたので、慌てて人差し指を立てて夏樹を制した。
「しー!ちょっと、声が大きくないですか!?みんなに聴こえちゃう…」
「じゃあこうしたらいい?」