聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!
そう言うと、夏樹は少し屈んで美桜の耳元に顔を持っていき、囁いた。
「焦ってる顔も、かわいいな。」
「なっ……!!」
耳元で感じた先輩の吐息。
少し掠れた声。
香水とは違う、ふんわりとしたいい香り。
色んな要素に翻弄された美桜は、思わず耳元を抑えた。
耳まで熱くなってる。
顔を真っ赤にした美桜が慌てている様子を見て、夏樹はニヤリと笑った。
「よく顔が赤くなるから、りんごちゃんでもいいな。」
「もう、なんでもいいです…」
夏樹のペースにすっかり翻弄された美桜は、渋々提案を受け入れた。
夏樹は「勝った」とばかりに得意げな顔をしている。
美桜はこの際、思い切って気になることを聞いてみることにした。
「あ、あの!気になってたことがあるんですけど…」
「ん?何?」
「堀越先輩って、昔、本町に住んでました?昔私と一緒に遊んでくれてた近所のお兄ちゃんも堀越夏樹って名前だったので、もしかしたらって思って…」