聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!


矢嶋が菜々の顔を覗き込み、ふんわりと微笑みながら、指で優しく、涙を拭ってくれた。


「なんで今泣くの?…泣かないでよ。せっかく今日、綺麗なのに。もったいない。」


そして、ゆっくりと菜々の頭を撫でる。


その手からも、矢嶋の「好き」が伝わってくるようだった。


「…ごっ…ごめんなさっ…」


矢嶋に対して、悪い印象は全くない。


でも「良い先輩」の先からは、まだ怖くて、自信がなくて、一歩踏み出せないのも事実。


いつも自分に自信が持てず、誰かを好きになることを恐れていた自分が手繰り寄せた未来は、矢嶋を傷つける、という最悪な結果に繋がっていた。

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