聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!
ドーーンッ!
遠くで、花火が上がる音が聞こえてきた。
でも、菜々達が立っているところからは、全く見えない。
「…帰ろっか。」
そう言って、矢嶋は駅に向かって歩き出した。
そこから先は、よく覚えていない。
気付いたら家に帰って、ベッドで泣いていた。
改札を抜けて、矢嶋とは反対のホームへ向かう時に、お互いに手を振って別れたのだけは覚えている。
最後に、矢嶋が菜々へ向けてくれたのは、哀しみを湛えた笑顔だった。
――フラれた矢嶋先輩が泣かなくて、フッた私が泣くなんて。ずるいよ、私。
――ホント、こんな自分、キライ…。最低。
菜々は、夜遅くまで泣き続けた。
スマホの通知ランプがずっと点滅していることを、気に留める余裕もなかった。
矢嶋が最後に送ってくれた、ブレスレットを掲げて笑顔で写る2人のツーショット写真。
それが、矢嶋からの最後のメッセージとなった。