聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!
12 好きと憧れ
季節は秋になった。
部室がある建屋の裏道には、銀杏の葉が黄色い絨毯を作っている。
そんな中を、菜々は部活終わりに、たまたま帰りが一緒になった里帆と歩いていた。
「もう秋かぁ。早いねぇ。」
里帆が頭の上の銀杏の木々を眺めながらしみじみと言った。
「そうだね。夏休み、あっという間に終わっちゃったし。」
「…あ!菜々、あれ見て!」
「?」
里帆が指差した先。
銀杏の葉で黄色く縁取られた校舎の壁に沿って、垂れ幕が掲げられていた。
『インターハイ男子200m 優勝 矢嶋博孝』
『インターハイ男子5,000m 準優勝 堀越夏樹』
「すご!矢嶋先輩も、堀越先輩も、すご!!」
「ホントだね…。」
興奮する里帆の横で、菜々はじっと、矢嶋の名前が書かれた垂れ幕を見つめた。
時折吹く木枯らしで、垂れ幕が波打ち、パタパタと音を立てていた。