聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!
「憧れ…。」
「うん。話したり、手が触れたり、目が合ったりしたら嬉しいけど、それ以上を求めてないんだよね。…あ、そうだ!」
里帆は、閃いた!といった表情をすると、菜々を見た。
「あれだ、アイドルを見てるような感覚!キラキラしててー、かっこよくてー、握手会で手を握ったらキャー!ってなるけど、それで満足、っていう。先輩のこともそんな感覚で、好きって思うかな。」
――アイドル、かぁ。
菜々が、なるほど、といった感じで頷いていると、里帆が菜々の顔を覗き込みながら尋ねた。
「どう?矢嶋先輩のこと、もしかしたらアイドルみたいな感覚で見てたりしない?」
「アイドル…」
神妙な顔つきで考え込む菜々を、里帆はじっと見つめる。
「アイドル…ではないかな。」
カクッと里帆が項垂れる。
「そっかー。やっぱり恋愛経験少ない私の話じゃ、全然参考にならないねー。ごめんよー、菜々ー。」
自分の無力さを嘆く友人を、菜々は必死でフォローしながら帰宅した。