聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!


「ただいまー。」


「おかえりー。」

帰宅して玄関から声を掛けると、母親の声が聞こえた。


――いい匂い。今日は生姜焼きかな?


「ねーちゃん、おかえり。な、見てよこれ。」


リビングに入ると、弟の駿(しゅん)が、ちょうどつけていたテレビを指差した。


菜々がテレビに目をやると、菜々が好きな俳優、ハルミチが記者会見をしているところだった。


「この人、ねーちゃんが好きな俳優さんじゃね?彼女いたんだなー。てか結婚するんだってさ。オメデタらしいよ。」


「え!?」


思わず大きな声が出た菜々は、その場で固まった。


ハルミチが、人気アイドルのまおと一緒に並んで立ち、マイクを持って結婚報告をしている映像が流れた。


「どう?憧れの君の結婚会見。」


駿は振り向き、菜々の表情を伺っている。


「えー、ショック…。」


菜々はテレビに視線を送ったまま、ソファの前に回り込み、弟が座っている場所の横に腰かけた。


「すげーよな。こんな人気者同士が付き合ってて、結婚するまでバレないなんてさ。よっぽど上手く隠し通してたんだな。」


菜々はじっとハルミチを見つめた。幸せそうな表情。時折、まおの方を、はにかみながら見つめている。

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