聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!
――あ、相良君が彼女さんを見つめてた時とそっくり。
「ねーちゃん、『ハルミチ・ロス〜』なんて言って、泣いたりすんなよ?」
ニヤニヤしながらからかってくる弟を見て、ムッとした菜々は言い返した。
「泣いたりしませんー。ハルミチが幸せなら、その幸せを応援するのがファンってもんでしょ?」
「ハイハイ、そうですか。いいよなー、イケメンは。生きてるってだけで応援までしてもらえて、得してるよなー。なんかオーラ?出て、キラキラしてるし。俺もキラキラオーラほしー。」
「それだけじゃモテないよ?ハルミチは気取ってないし、正直でまっすぐなとこが…」
そこまで言って、菜々はハッとした。
「え、どした?」
急に固まった姉を見て、駿が声をかける。
「…なんでもない。私、お風呂入ってくる。」
そう言うと、菜々は洗面所に向かった。
制服を脱ぎ、風呂場に入ると、かけ湯をして湯船につかった。
じんわりと体全体が温まってくるのを感じながら、菜々はようやく大事なことに気付いた。
――そうだ。相良君が彼女さんと一緒にいるを見た時の感覚。ハルミチと一緒だ。彼女がいること、ショックだったけど、涙が出なかったのは、私が相良君のことを『好き』じゃなくて『憧れ』ているから、だったんだ。