聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!
――嫌。矢嶋先輩に彼女がいるなんて。そんなの、簡単に心の整理なんてできない。
『…綺麗だよ。いつもは可愛いけど、今日は綺麗。』
『…好きだよ。橋本ちゃんのことが、好きだ。初めて見た時から、ずっと。』
ふと、矢嶋の顔が思い浮かんだ。同時に、涙が溢れてくる。
「先輩……、好きっ…」
ようやく、自分の中で結論を出せた。
――伝えよう。もう遅いかもしれないけど、後悔したくないから。
その晩、菜々は思い切って矢嶋にメッセージを送ることにした。
自室で1人、矢嶋とのトーク画面を見つめる。
そこには、1ヶ月程前の日付が表示された、矢嶋とのツーショット写真やメッセージが表示されている。
ドキドキしながら、菜々は文字を打ち込んだ。
『こんばんは。写真の御礼もしないままで、ごめんなさい。よかったら会ってお話できないでしょうか?』
何度も読み返し、入力し直して、やっとこの文面に落ち着いた。
心を落ち着かせてから、思い切って送信ボタンを押す。
前回は直ぐに既読になったが、今回はなかなか既読にならない。
――当たり前か。受験勉強で忙しかったら、すぐに返信なんてできるはずないんだから。
そう思い、とりあえずその日は寝ることにした。