聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!
「そっか…。そんなことがあったんだね。」
「彼女もいるし、もう諦めてたんです。でも…」
そこまで言って、また涙が溢れてきた。
「でも、やっぱり諦めきれてなかったみたいです。だって、会えて、話せて、こんなに嬉しい…。」
ポンポンと、頭に触れた矢嶋の大きな手。
本当は、いつかもう一度、繋いで欲しいと願っていた。
プールで繋いでくれたあの時のように、ほんの一瞬ではなくて、ずっと離さず、握って欲しい。
神崎は黙って話を聞いていたが、ポロポロと涙を流す菜々に、静かに言った。
「橋本ちゃんは、このままでいいの?矢嶋先輩、もうすぐ卒業だよ?」
「でも、前に送ったメッセージも読んでもらえてないですし…」
「何か理由があったんじゃない?それに、クリスマスに見かけた人とも、今はもう付き合ってないかもよ?少なくとも、さっきのあの態度は、橋本ちゃんのこと好きって言ってるようなものだったし、橋本ちゃんが矢嶋先輩のこと好きなら、絶対本人とちゃんと話した方がいいって!」
「でも…」
「橋本ちゃん!」
語調を強めた神崎の真剣な顔と向き合った。