聖人君子のお兄ちゃんが、チャラ男になったなんて聞いてません!


次の日


靴箱で上履きに履き替えていると「レースちゃん、おはよ」という声が聞こえた。


顔を上げると、部活用のバッグを背中に背負った
夏樹が廊下に立っている。


美桜は靴箱にローファーを入れながら「…おはようございます。」とペコリと頭を下げた。


夏樹の顔を見た途端、昨日、みなみが夏樹の腕に自分の腕を絡ませているシーンが思い浮かんだ。


――あー、もうなんで朝から思い出すかなぁ。


あのシーンを思い出すとモヤモヤした気持ちになる。


――あれだけ距離が近いってことは、みなみ先輩と堀越先輩って、きっともう付き合う寸前なんだよね…。


昨日の夜も何度か思い浮かんだその言葉が、また美桜の心をキュッと締付けた。


「昨日は、ごめんな、送ってあげられなくて。帰り、大丈夫だった?」


見た目がチャラい夏樹が心配そうな話し方をしてくると、その優しさがますます貴重でレアなモノに思えてくる。


胸がまたキュッと締め付けられた。


――いやいや、胸が痛いなんて気のせい!


そう自分に言い聞かせた美桜は、夏樹の前を、すーーっと通りながら「大丈夫でーす。ご心配ありがとうございまーす。」と言って、教室へ向かおうとした。


すると「おい」という言葉と共にぐいっと腕を引っ張られる。

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