絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 彼の行動や言葉に振り回されながらも、もしかして、と期待せずにはいられない。
 じれったいことこの上ないが、やはりフランチェスカはマティアスを諦めようとは思えなかった。
 まだ、彼のことを好きでいてもいいのだろうか。
 マティアスはフランチェスカを迷惑には思っていない、シドニアにいてもいいと思ってくれている――そう信じても許されるのだろうか。
 夫に恋をしているフランチェスカは、どうやったって甘い期待をしてしまうのである。

「早く私に、手を出してくださればいいのに……」

 とても人様に聞かせられない言葉を口にしつつ、ふうっと大きく深呼吸して、足を一歩引いたところで、なにか硬いものを蹴った感触があった。

「ん?」

 何だろうと足元に目を向けると、小さな人形が落ちていた。しゃがみこんでそれを拾い上げる。

「……ねこ?」

 それは手のひらにちょこんとのるサイズの小さな白猫の人形だった。しかも人間の女の子のようにかわいい洋服を着ているではないか。

「まぁ、かわいい!」

 フランチェスカはぱっと顔を明るくしたが、なぜ部屋にこれが落ちているのかわからない。

「誰かが落としたのかしら……?」

 部屋はメイドたちが掃除をしたりお茶を運んだりと出入りが多い。既婚者もいるので、誰かの子供のものかもしれない。
 明日にでもアンナに尋ねてみよう。
 そう思いながら、手の中の愛らしい白猫の人形を見つめたのだった。



 翌朝、アンナに人形を渡して落とし主を探してもらったが、結局誰のものでもないということで白猫の人形はフランチェスカの手元に戻ってきてしまった。

「これ、ポポルファミリーシリーズと言って、王都では人気の玩具なんですよ。猫とかウサギとかクマとか、動物がモチーフになっていて、専用の家まであるんです」
「へぇ……そうだったの」

 フランチェスカは紅茶を飲みながら、テーブルの上に置いた人形をじいっと見つめたあと、指先で猫の頭を撫でる。

「じゃあ持ち主が見つかるまで、私が預かるわ」
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