絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
「久しぶりにここに来たな……」
マティアスは感慨深く、部屋の中を見回す。
シドニア中心街から外れた場所にあるこの集合住宅は、かつてマティアスが激務の中、公舎から屋敷に戻るのが面倒だった時代に借りたものだ。最上階をワンフロア借り切っているので、人目を気にすることもない。窓際には簡素なベッドがあるだけだが、左右の壁には本来であればグラスを飾るためのガラスキャビネットが並べてある。
だがその中に所狭しと飾られているのは、マティアスがこの八年で地道に集めたポポルファミリーシリーズだ。
猫やうさぎ、クマやリスという動物たちが、かわいい服を着せられてずらりと並んでいる。
「――」
久しぶりに見た光景だが、胸の奥がぐうっと締め付けられて、全身がぶるっと震えてしまった。
「ああっ、いったいどこに落としたんだ、俺のフランチェスカッ!」
マティアスは抑え込んでいたフラストレーションを開放するかの如くの勢いで、頭を抱え叫んでいた。
そう、マティアスは最近フランチェスカに似ている白猫ちゃん人形をお守りのように胸ポケットに入れていたのだが、どこかで紛失してしまったのだ。亡くしたことに気づいてからの数日、思い当たる場所をこっそり探したのだが、結局見つからないままだった。
「はぁ~……」
新しいものを買えばいいというものではないし、そもそも非常に気に入っている人形だったので、ダメージが大きい。持ち歩けばこういうリスクもあるとわかっていたが、やはり気分は落ち込んでしまう。
マティアスはワインとグラスを手にソファーに腰を下ろすと、雑にワインを注いで一気に煽る。そしてぼーっとする頭で、テーブルの上に置きっぱなしの裁縫道具と布の山を見つめた。
「新しい服を、作ってやりたいと思ったのにな……」
つい先日、八年ぶりに王都に行ったマティアスは、仕立て屋に人形の洋服を作るためのあれこれを注文した。
人形の服を作ることに関しては、まったくの素人だが、針仕事は物心ついた時からずっとやっていた。
戦争孤児で身寄りもなく、食うために十五で軍隊に入った。服だって靴だって、なんでも自分で修理して大事に使っていたので、やれるという自信があったのだ。
マティアスは感慨深く、部屋の中を見回す。
シドニア中心街から外れた場所にあるこの集合住宅は、かつてマティアスが激務の中、公舎から屋敷に戻るのが面倒だった時代に借りたものだ。最上階をワンフロア借り切っているので、人目を気にすることもない。窓際には簡素なベッドがあるだけだが、左右の壁には本来であればグラスを飾るためのガラスキャビネットが並べてある。
だがその中に所狭しと飾られているのは、マティアスがこの八年で地道に集めたポポルファミリーシリーズだ。
猫やうさぎ、クマやリスという動物たちが、かわいい服を着せられてずらりと並んでいる。
「――」
久しぶりに見た光景だが、胸の奥がぐうっと締め付けられて、全身がぶるっと震えてしまった。
「ああっ、いったいどこに落としたんだ、俺のフランチェスカッ!」
マティアスは抑え込んでいたフラストレーションを開放するかの如くの勢いで、頭を抱え叫んでいた。
そう、マティアスは最近フランチェスカに似ている白猫ちゃん人形をお守りのように胸ポケットに入れていたのだが、どこかで紛失してしまったのだ。亡くしたことに気づいてからの数日、思い当たる場所をこっそり探したのだが、結局見つからないままだった。
「はぁ~……」
新しいものを買えばいいというものではないし、そもそも非常に気に入っている人形だったので、ダメージが大きい。持ち歩けばこういうリスクもあるとわかっていたが、やはり気分は落ち込んでしまう。
マティアスはワインとグラスを手にソファーに腰を下ろすと、雑にワインを注いで一気に煽る。そしてぼーっとする頭で、テーブルの上に置きっぱなしの裁縫道具と布の山を見つめた。
「新しい服を、作ってやりたいと思ったのにな……」
つい先日、八年ぶりに王都に行ったマティアスは、仕立て屋に人形の洋服を作るためのあれこれを注文した。
人形の服を作ることに関しては、まったくの素人だが、針仕事は物心ついた時からずっとやっていた。
戦争孤児で身寄りもなく、食うために十五で軍隊に入った。服だって靴だって、なんでも自分で修理して大事に使っていたので、やれるという自信があったのだ。