絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 だがマティアスは相変わらずその場にひざまずいたまま、
「それで、その……今更かもしれませんが、もう少しあなたと過ごす時間を作ろうと思います」
 と言い出したものだから、思わず我が耳を疑ってしまった。

「えっ?」

 マティアスはそれからどこか覚悟を決めたように、目に光を宿して立ち上がる。

「あなたと夫婦として過ごしたい。夜は同じベッドで眠って、朝をともに迎えたい。そう思っています」

 こちらを見上げるマティアスの緑の目は、キラキラと熱っぽく輝いていて――。

「いかがですか、フランチェスカ?」

 マティアスの男らしい端整な美貌に、抑えきれない色気が漂っている。まるで求愛されているようなその言葉と眼差しに、胸がきつく締め付けられる思いがした。

 同じベッドで眠り、朝をともに迎える。
 新婚初夜を失敗したフランチェスカが、どうしても欲しくてたまらなかった時間。
 この、あたかもマティアス本人がそうしたいと熱烈に思っているような――。
 フランチェスカを妻として本気で愛そうとしているようにも聞こえる言い回しをされて、鼻の奥がつんと痛くなってしまった。

(このまま、何も知らなかった顔をして、マティアス様に愛されてみたいわ……)

 ふたりの時間を増やすということは、マティアスが妻子のもとに行く時間が減るということだ。
 本当は、彼のためを思えば喜んではいけないはずなのに、フランチェスカの心は妖しくざわめく。
 一分一秒でもマティアスの側にいたい。その気持ちを抑えられない。

 だがマティアスのためになるのだろうか。
 彼には心を休める場所がほかにあるというのに、後から来た自分が横入りをしていいとはとても思えない。

(きっと、マティアス様は私にほだされてしまわれたのだわ。子犬のように追いかけまわして……妻にしてくれって、甘えていたから……)

 だとしたらマティアスはどこまで優しいのだろう。

 もう、十分だった。
 フランチェスカはハッキリと首を振った。

「いいえ、マティアス様。もうお気遣いは無用です」
「――え?」

 その瞬間、マティアスが不意打ちをくらったように目を見開く。

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