絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 そして兄によると皇女はちょうど『シドニア花祭り』が終わってから、嫁いで来られるらしい。

「まるでこちらの事情をすべて理解したような、完璧なスケジュールね……」

 女官になるかならないか、王太子妃とお会いして決めようとは思っているが、会ってから断ることは難しいだろう。腹をくくるしかない。
 だがおかげで今は、花祭りを成功させることに集中できる。
 フランチェスカはむくりと起き上がると、ぱちぱちと自分の頬を叩いて叱咤激励した。

「あと少し、がんばらなくちゃ……」

 手紙を大事にしまって、それから広間へと戻る。
 テーブルの上にはアンナが用意した軽食とお茶の用意がされていたが、マティアスの姿はなかった。

「マティアス様は?」

 アンナに問いかけると、
「公舎から連絡があってそちらに向かわれました。練習に付き合えず申し訳ないとのことでしたよ」
 ということだった。

「そう……」

 彼からの申し出である『夫婦の時間』を断った後、マティアスとの個人的な会話はぐっと減ってしまっている。

 お互い忙しいから――。

 そう自分に言い聞かせているが、マティアスが今までのように自分に構わなくなったことにフランチェスカは気づいている。そしてそのことを寂しく思っていることも。
 そう望んで、そうなるように振る舞っているのは自分なのに。

(自分勝手で……嫌になるわ)

 気を緩めたら涙がこぼれそうで。フランチェスカは大きく深呼吸した後、天井を見上げて唇を引き結んだ。

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