絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
そう、マティアスは恋をしてしまった。
妻などいらないと頑なに独身を通してきたのに、気が付けば押しかけて来た若い娘を本気で好きになっていた。
きっとこれが人生で最後の恋になるのだろう。
自分の愚かさのせいで、始まる前に終わってしまったが、フランチェスカが側にいてくれた半年は、夢のように楽しかった。その日々を否定する気にはなれない。
帝国の皇女は『シドニア花祭り』が終わった数日後に嫁いで来るらしい。
別れのタイミングとしては完璧だ。
「絶対に成功させないとな……」
卑怯な脅迫状などでフランチェスカの頑張りの邪魔はさせない。
マティアスは強く決心するのだった――。
そうして前夜祭を明日に迎えた夜。フランチェスカは王都から正式に届いた招待状を見て、緊張したように体を強張らせていた。
「お嬢様……それって」
「ええ。皇女殿下を迎えるための晩さん会の招待状よ」
ロドウィック帝国第二皇女を迎えての結婚の儀は、約二週間にわたって行われる。そして今回の晩さん会は貴族たちへのお披露目を兼ねたものだ。
フランチェスカは美しい金色の縁で彩られた招待状をテーブルの上に置いて、目を伏せた。
「とりあえず、花祭りが終わったらすぐにここを出るわ」
「――戻ってくるおつもりですか?」
「個人的にはそうしたいと思ってる。お世話になった人たちに挨拶をしたいし……マティアス様とも、このままさよならなんてしたくないもの」
フランチェスカはそう言って、膝の上で拳を握る。
その硬い表情を見て、アンナが口を開く。
「お嬢様、旦那様に思いを告げられるおつもりはないのですか?」
「そんなことできるわけないじゃない。自己満足でマティアス様を煩わせたくないわ」
物語を書き続ける自由のためにマティアスの押しかけ妻になり、彼に認められたくて『シドニア花祭り』の企画を立ち上げた。BBの名前で舞台の脚本を書き、最後には夫婦ふたりで舞台に立てる。
短い期間で忙しくはあったけれど、毎日が充実していた。王都の貴族と結婚していたら、決して味わえない経験だった。
恋は実らなかったが、マティアスを好きになって本当によかったと思う。
彼には感謝の気持ちしかない。
妻などいらないと頑なに独身を通してきたのに、気が付けば押しかけて来た若い娘を本気で好きになっていた。
きっとこれが人生で最後の恋になるのだろう。
自分の愚かさのせいで、始まる前に終わってしまったが、フランチェスカが側にいてくれた半年は、夢のように楽しかった。その日々を否定する気にはなれない。
帝国の皇女は『シドニア花祭り』が終わった数日後に嫁いで来るらしい。
別れのタイミングとしては完璧だ。
「絶対に成功させないとな……」
卑怯な脅迫状などでフランチェスカの頑張りの邪魔はさせない。
マティアスは強く決心するのだった――。
そうして前夜祭を明日に迎えた夜。フランチェスカは王都から正式に届いた招待状を見て、緊張したように体を強張らせていた。
「お嬢様……それって」
「ええ。皇女殿下を迎えるための晩さん会の招待状よ」
ロドウィック帝国第二皇女を迎えての結婚の儀は、約二週間にわたって行われる。そして今回の晩さん会は貴族たちへのお披露目を兼ねたものだ。
フランチェスカは美しい金色の縁で彩られた招待状をテーブルの上に置いて、目を伏せた。
「とりあえず、花祭りが終わったらすぐにここを出るわ」
「――戻ってくるおつもりですか?」
「個人的にはそうしたいと思ってる。お世話になった人たちに挨拶をしたいし……マティアス様とも、このままさよならなんてしたくないもの」
フランチェスカはそう言って、膝の上で拳を握る。
その硬い表情を見て、アンナが口を開く。
「お嬢様、旦那様に思いを告げられるおつもりはないのですか?」
「そんなことできるわけないじゃない。自己満足でマティアス様を煩わせたくないわ」
物語を書き続ける自由のためにマティアスの押しかけ妻になり、彼に認められたくて『シドニア花祭り』の企画を立ち上げた。BBの名前で舞台の脚本を書き、最後には夫婦ふたりで舞台に立てる。
短い期間で忙しくはあったけれど、毎日が充実していた。王都の貴族と結婚していたら、決して味わえない経験だった。
恋は実らなかったが、マティアスを好きになって本当によかったと思う。
彼には感謝の気持ちしかない。