絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
「いい!? そもそも今回のお祭りを開催したいと申し出たのは私よ! それでもあの方は十八の小娘の言うことだとバカにしなかったし、女だからと言って私をたしなめたりしなかった! いつだって親身になって相談にのってくださったわ! 火事が起こった時も率先して消火活動にあたって、明け方まで駆けずりまわっていた! 私はあの人ほど高貴な精神を持つ人をほかに知らない! 口を開けば人の悪口ばかり言っているあなたたちとは全然違う! 次にあの人のことを『野良犬』と言ったら、許さないんだから! なにがなんでも私の夫を侮辱したいというのなら、私が相手になってやるわよっ!」

 叫び終わった瞬間、耳の奥がキィンと響いて、眩暈がした。
 ジョエルが「フランチェスカ……」と呆けたようにつぶやいたが、もう遅い。

 いきなり真正面から水を浴びせられたカールは茫然と固まったままで、『鏡の間』は水を打ったようにしーんと静まり返った。
 ただひとり、頭に血を上らせたフランチェスカがぜぇぜぇと肩で息をする声だけが響く。

(や……やってしまった……)

 遅れて数秒、ハッとした。
 貴族たちもとんでもないモノを見てしまったと、凍り付いている。全身から力が抜けて、持っていたフィンガーボールが床に落ち、カラーンと音をたてた。
 そんな中、最初に沈黙をやぶったのは、公爵夫人だ。

「ふ、フランチェスカッ! あなたカールになんてことをするのっ! いくら姪でも許しませんよ!」

 真っ青になって叫ぶ。
 そうなると途端にフランチェスカもまた頭に血が上り、反射的に言い返す。

「は!? それは私のセリフですが!?」

 フランチェスカはブルブルと震えている叔母に向き合うと、目を吊り上げる。

(そっちがその気ならこっちだって戦ってやる!)

 フランチェスカは決意した。

 そうだ、こんなことでいつまでも我慢するなんて、どうかしている。
 これまでほぼ人生を諦めていたから、なにが起こっても『まぁ、仕方ないかな』で済ませていた自分だとは思えないくらい、腹が立っている。
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