絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
(あの方が……皇女殿下……?)
それから王太子とともに、淡いベージュのドレスに身を包んだ小柄な女性が、目の覚めるような純白の軍服に仮面をつけた長身の騎士に手を取られ、しずしずと部屋の中に入ってきた。
波打つ淡い栗色の髪に理知的な紅茶色の瞳。体はほっそりと小柄だが、その眼差しは凛と強く、気品がある。フランチェスカと同い年と聞いていたがさすが大帝国の姫君だ。
そしてその隣にいる騎士も、まるで大樹のように堂々としていてただならぬ迫力があった。
「ねぇ……。あの隣にいらっしゃる騎士様はどなたかしら」
その姿を発見した貴族の夫人が、少し弾んだ声で問いかける。
「皇女殿下の嫁入りに際して選ばれる騎士ではないか」
「あれが! なんと立派な……」
「さすが堂々としておられる」
貴族たちは思わず感嘆の声を漏らす。
まるで一枚の絵のように美しいふたりに、誰もが目を奪われて呼吸するのを忘れているようだった。
なるほどあれが噂の『帝国一の騎士』らしい。
(確かにちょっと素敵かも……)
緊迫した状況のはずなのに、思わずそんなことを考えて、フランチェスカはハッと我に返った。
(なにを考えているのかしら! 私はマティス様一筋なのにっ!)
慌てて表情を引き締めていると、
「アルテリア王国の皆様、初めまして。マリカ・マリーナ・ヴァロア・ロドヴィックです」
マリカ殿下はニッコリと微笑みながら名乗りをあげ、それから隣に立っている騎士を見上げた。
「そしてこちらが私のもっとも信頼する騎士――マティアス・ド・シドニア閣下です」
その名が皇女の口から出た次の瞬間、『鏡の間』が水を打ったように静かになった。
マティアス・ド・シドニア。
ここにいる王国貴族で彼の名を知らない人間はいないだろう。
それから王太子とともに、淡いベージュのドレスに身を包んだ小柄な女性が、目の覚めるような純白の軍服に仮面をつけた長身の騎士に手を取られ、しずしずと部屋の中に入ってきた。
波打つ淡い栗色の髪に理知的な紅茶色の瞳。体はほっそりと小柄だが、その眼差しは凛と強く、気品がある。フランチェスカと同い年と聞いていたがさすが大帝国の姫君だ。
そしてその隣にいる騎士も、まるで大樹のように堂々としていてただならぬ迫力があった。
「ねぇ……。あの隣にいらっしゃる騎士様はどなたかしら」
その姿を発見した貴族の夫人が、少し弾んだ声で問いかける。
「皇女殿下の嫁入りに際して選ばれる騎士ではないか」
「あれが! なんと立派な……」
「さすが堂々としておられる」
貴族たちは思わず感嘆の声を漏らす。
まるで一枚の絵のように美しいふたりに、誰もが目を奪われて呼吸するのを忘れているようだった。
なるほどあれが噂の『帝国一の騎士』らしい。
(確かにちょっと素敵かも……)
緊迫した状況のはずなのに、思わずそんなことを考えて、フランチェスカはハッと我に返った。
(なにを考えているのかしら! 私はマティス様一筋なのにっ!)
慌てて表情を引き締めていると、
「アルテリア王国の皆様、初めまして。マリカ・マリーナ・ヴァロア・ロドヴィックです」
マリカ殿下はニッコリと微笑みながら名乗りをあげ、それから隣に立っている騎士を見上げた。
「そしてこちらが私のもっとも信頼する騎士――マティアス・ド・シドニア閣下です」
その名が皇女の口から出た次の瞬間、『鏡の間』が水を打ったように静かになった。
マティアス・ド・シドニア。
ここにいる王国貴族で彼の名を知らない人間はいないだろう。