絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
「うわぁっ!」
案の定、いきなり目の前で倒れられたマティアスが声をあげ、フランチェスカを慌てて抱きとめる。
「大丈夫ですか!?」
「ええ、ごめんなさい……だいじょう、ぶ……で……」
そうは言ったが、膝ががくがくと笑って足に力が入らない。
(やっぱり寒い……体が凍えそう……)
王都からシドニアまで丸三日の馬車の旅は、休み休みではあるが、非常に体力を削られるものだった。正直言って無理を通した自覚もある。フランチェスカは自分の体がとうに限界を超えていたことに気づいていた。
「お嬢様!」
やや遅れて、一緒に馬車に乗っていた侍女のアンナが悲鳴をあげて背中をさすったが、相変わらず足に力は入らず、瞼が急激に重くなる。
冷たい雪の上でもいいから、今すぐ横になりたいと思うほどに。
(大丈夫だって言った矢先に倒れてしまいそう……情けない)
このままでは病弱なのを理由に追い返されるかもしれない。
いやだ、いやだいやだいやだ!
帰りたくない!
フランチェスカは唇をかみしめる。
必死に立とうと、足に力を入れようとしたところで、突然、ふわりと体が宙に浮く感触がした。
「すぐにベッドの用意をしてくれ!」
頭の上から声が響く。
彼が身に着けていた毛皮のマントで体が包み込まれた。その瞬間、ごうごうと吹きすさぶ雪の音が消える。
状況から察するに、マティアスがフランチェスカを抱きかかえているようだ。
「――マティアス様、お部屋を用意いたしました。どうぞこちらに」
年かさの声は家令だろうか。
「ああ、頼む。医者も呼んでくれ」
マティアスはそう言って、いきなりずんずんと歩きだす。