絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
窓を開けてよく見てみたいが、そんなことをするとアンナに怒られてしまうのでグッと我慢する。そうやってしばらく待っていると、ドアが軽くノックされる。アンナだろうかと「はぁい」と返事をすると、ドアがガチャリと開いた。
「フランチェスカ様」
「っ……!?」
男性の声に驚いて振り返ると、そこには濃紺の儀礼服に身を包んだマティアスが立っていて、フランチェスカの心臓は、信じられないくらい跳ねあがっていた。
「マティアス様っ!」
彼とこうして顔を合わせるのは、約二週間ぶりだった。
なにか言わなければならないという思いに駆られ、フランチェスカは慌てて立ち上がり、マティアスのほうへと歩き出す。だが次の瞬間、長いドレスの裾をつま先が踏み、体がバランスを失った。
「あっ」
「あぶないっ!」
ぐらりと傾くと同時に慌てたようにマティアスが大股で近づいて来て、フランチェスカの体を正面から抱きとめる。初めて会った時も思ったが、彼の体は大樹のようにがっしりとしていて、自分がぶつかった程度ではぐらりともしなかった。
(やっぱり軍人でいらっしゃるから、私とは体つきが全然違うのね)
そんなことを考えながら、フランチェスカはマティアスを見上げた。
彼はフランチェスカより頭ひとつ以上背が高く、見上げるだけで首が痛くなりそうだし、話しづらい。
だがフランチェスカはどうしても彼の目を見て話がしたかった。
自分でも不思議なことだが、彼の美しい緑の瞳を見ていると、なんだか心が落ち着くのだ。
「すみません」
「いいえ、こちらこそ驚かせて申し訳なかった。アンナにドアを開けさせるべきでした」
マティアスは困ったように視線をさまよわせた後、それからフランチェスカの手をとり、椅子へと座らせる。
そしてその場にサッとひざまずき、真摯な表情で言葉を続けた。
「準備ができたのでお迎えに来たのです。これから馬車に乗って教会に行き、教会で結婚同意書にサインをしたあとは、お披露目を兼ねて馬車で領内を周ります」
「はい」
「今日は運よく天気もいいですが、花嫁衣裳を領民に見せるのは教会に入る前と後だけでいいでしょう。馬車の足元には火鉢を置いておきますが、移動中はかならず毛皮のケープを羽織ってください。それと領内の整備はこの八年でかなり進んでいますが、馬車道に関してはすぐに悪路になってしまうこともあり、万全とは言えません。気分が悪くなったら、すぐにおっしゃってください。それから――」
マティアスは恐ろしく真面目な表情で次から次に、注意事項を口にした。
「フランチェスカ様」
「っ……!?」
男性の声に驚いて振り返ると、そこには濃紺の儀礼服に身を包んだマティアスが立っていて、フランチェスカの心臓は、信じられないくらい跳ねあがっていた。
「マティアス様っ!」
彼とこうして顔を合わせるのは、約二週間ぶりだった。
なにか言わなければならないという思いに駆られ、フランチェスカは慌てて立ち上がり、マティアスのほうへと歩き出す。だが次の瞬間、長いドレスの裾をつま先が踏み、体がバランスを失った。
「あっ」
「あぶないっ!」
ぐらりと傾くと同時に慌てたようにマティアスが大股で近づいて来て、フランチェスカの体を正面から抱きとめる。初めて会った時も思ったが、彼の体は大樹のようにがっしりとしていて、自分がぶつかった程度ではぐらりともしなかった。
(やっぱり軍人でいらっしゃるから、私とは体つきが全然違うのね)
そんなことを考えながら、フランチェスカはマティアスを見上げた。
彼はフランチェスカより頭ひとつ以上背が高く、見上げるだけで首が痛くなりそうだし、話しづらい。
だがフランチェスカはどうしても彼の目を見て話がしたかった。
自分でも不思議なことだが、彼の美しい緑の瞳を見ていると、なんだか心が落ち着くのだ。
「すみません」
「いいえ、こちらこそ驚かせて申し訳なかった。アンナにドアを開けさせるべきでした」
マティアスは困ったように視線をさまよわせた後、それからフランチェスカの手をとり、椅子へと座らせる。
そしてその場にサッとひざまずき、真摯な表情で言葉を続けた。
「準備ができたのでお迎えに来たのです。これから馬車に乗って教会に行き、教会で結婚同意書にサインをしたあとは、お披露目を兼ねて馬車で領内を周ります」
「はい」
「今日は運よく天気もいいですが、花嫁衣裳を領民に見せるのは教会に入る前と後だけでいいでしょう。馬車の足元には火鉢を置いておきますが、移動中はかならず毛皮のケープを羽織ってください。それと領内の整備はこの八年でかなり進んでいますが、馬車道に関してはすぐに悪路になってしまうこともあり、万全とは言えません。気分が悪くなったら、すぐにおっしゃってください。それから――」
マティアスは恐ろしく真面目な表情で次から次に、注意事項を口にした。