絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 完全に仕事の雰囲気である。夫の妻に対する態度というよりも、貴人に対する振舞いそのものだった。
 一方フランチェスカはすぐ目の前にあるマティアスの赤い髪が、初めて会った時は下ろされていたけれど、こうやってアップにすると額の形がいいのがわかるなと思ったり、きりりとした眉の下の緑の瞳は、近づいて見ると虹彩が金色に輝いていることに気づいたり。
 そして彼のたくましい体を包む儀礼服に、八年前に祖母が彼に与えた勲章が燦然と光り輝いているのを発見して、誇らしいような気持ちになり、また無性にドキドキし始めていた。
 初めて彼と会った時は馬車の旅に心身ともに疲れていて、マティアスに対してもなんとなくふわっとした記憶しかなかったが、改めて見ると、マティアスの男ぶりに目がいってしまう。

(マティアス様って、もしかしてかなりの美男子なのでは……?)

 生まれてから十八年、王国一の美男子と誉れ高い兄の顔を見て育ったせいか、兄は別格として、書物の中の美男子のほうが現実よりずっといい! と思っていた。
 だがこうやって近距離で見ると、マティアスは眉も鼻も頑固そうな唇も、シャープな顎のラインもどこをとっても魅力的に見える。
 それこそ『フランチェスカがいつも書いている、好ましいと思うタイプの男性』レベルだと思えるくらいに。

「――あの」

 マティアスが少し強張った声でうめき声をあげる。
 なんだろうと軽く首をかしげると、彼はぎこちなく首を傾けて、目を伏せる。

「お顔が近いです」
「――あら」

 言われて初めて気が付いた。フランチェスカは彼の顔をかなり至近距離で見つめていたらしい。

「失礼しました。マティアス様のお顔をよく見たいと思って」
「えっ?」

 マティアスが不意打ちをうけたような、きょとんとした表情になる。

「とてもきれいな目をしていらっしゃるんですね。瞳の真ん中が濃い緑色で、そのふちが金色に輝いて、グラデーションになっているんです。キラキラ光って宝石みたい。つい見とれてしまいました」

 フランチェスカはえへへ、と微笑んだ。
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