絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
マティアスの書斎から戻るところで、ソワソワした様子のアンナが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「あら、アンナ。どうしたの?」
「どうしたのじゃないですよ……」
アンナは呆れたように眉をしかめ、フランチェスカと一緒に私室に入る。
「お姿がないから、旦那様に夜這いでもしに行ったのかと思いましたよ」
「まぁ、半分くらいはそのつもりだったわ」
こっそりと罪を告白すると、案の定アンナはぎょっとしたように肩をすくめる。
「マティアス様はお仕事で忙しそうにされていたし、だからおやすみのキスで我慢したの。そもそも私が強引に迫って既成事実を作ったとしても、それではマティアス様の信用を得られないでしょう? 私はやっぱり、あの方に本心から必要とされたいって思ったのよ」
そして書き物机の上に積んだ本の表紙を手のひらで撫でる。
「そしてそのために考えたことがあるの」
「考えたこと? なんですか、それ……」
碌なことにならなさそうだと不安顔のアンナがおそるおそる尋ねると、
「町おこしをします!」
唐突ともとれる勢いで、フランチェスカは高らかに宣言したのだった。
「町おこし~!?」
アンナがぽっかりと口をあけ、茫然とした表情でフランチェスカを見つめる。だがフランチェスカは本気だった。
「調べたところ、元々この地は王家の保養地だったんですって」
「保養地……? この地味なシドニアがですか?」
アンナの戸惑いもわからなくもない。マティアスが領主になった八年でかなり持ち直したとはいえ、王都から見れば辺境のさびれた田舎なのだ。
「温泉が出るのよ。初代アルテリア王はこの地の温泉で刀傷を癒したと本に書かれているわ」
「へぇ……そうだったんですね」
アンナが感心したようにうなずいた。
「今から百年以上前のことではあるけれど、温泉を求めて世界各国から観光客が集まっていたんですって。シドニア渓谷沿いに建てられた宿泊施設や湯治場にはずっと明かりがともっていて、夜でも昼のように明るかったんだとか」
今日、フランチェスカが書店で購入した本は数十年前の歴史書だった。かつて栄華を誇ったシドニア領のことが昔を懐かしむような筆致で描かれていて、すっかり夢中で読んでしまった。
そして読み終えた頃に、感じたのだ。
昔出来たことなら、今だってできていいのではないか。
またシドニアを活気のある地に戻せたら、どんなに素晴らしいだろうかと。
「あら、アンナ。どうしたの?」
「どうしたのじゃないですよ……」
アンナは呆れたように眉をしかめ、フランチェスカと一緒に私室に入る。
「お姿がないから、旦那様に夜這いでもしに行ったのかと思いましたよ」
「まぁ、半分くらいはそのつもりだったわ」
こっそりと罪を告白すると、案の定アンナはぎょっとしたように肩をすくめる。
「マティアス様はお仕事で忙しそうにされていたし、だからおやすみのキスで我慢したの。そもそも私が強引に迫って既成事実を作ったとしても、それではマティアス様の信用を得られないでしょう? 私はやっぱり、あの方に本心から必要とされたいって思ったのよ」
そして書き物机の上に積んだ本の表紙を手のひらで撫でる。
「そしてそのために考えたことがあるの」
「考えたこと? なんですか、それ……」
碌なことにならなさそうだと不安顔のアンナがおそるおそる尋ねると、
「町おこしをします!」
唐突ともとれる勢いで、フランチェスカは高らかに宣言したのだった。
「町おこし~!?」
アンナがぽっかりと口をあけ、茫然とした表情でフランチェスカを見つめる。だがフランチェスカは本気だった。
「調べたところ、元々この地は王家の保養地だったんですって」
「保養地……? この地味なシドニアがですか?」
アンナの戸惑いもわからなくもない。マティアスが領主になった八年でかなり持ち直したとはいえ、王都から見れば辺境のさびれた田舎なのだ。
「温泉が出るのよ。初代アルテリア王はこの地の温泉で刀傷を癒したと本に書かれているわ」
「へぇ……そうだったんですね」
アンナが感心したようにうなずいた。
「今から百年以上前のことではあるけれど、温泉を求めて世界各国から観光客が集まっていたんですって。シドニア渓谷沿いに建てられた宿泊施設や湯治場にはずっと明かりがともっていて、夜でも昼のように明るかったんだとか」
今日、フランチェスカが書店で購入した本は数十年前の歴史書だった。かつて栄華を誇ったシドニア領のことが昔を懐かしむような筆致で描かれていて、すっかり夢中で読んでしまった。
そして読み終えた頃に、感じたのだ。
昔出来たことなら、今だってできていいのではないか。
またシドニアを活気のある地に戻せたら、どんなに素晴らしいだろうかと。