絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
「そんな大きな観光地が、なぜ寂れてしまったのですか?」
「理由はいろいろあるけれど、一番の理由は当時の領主一族の銀行経営破綻ね。飢饉や天災という時代の流れで観光客が減り続けたのにもかかわらず、地元の観光業者たちに過剰な融資を行い続けたの。そして破綻後はなんの補填もせず、さっさとこの地を離れてしまった」
「なるほど……」

 銀行が離れてしまっては、経営がうまくいくはずがない。この町の観光業者はあっという間に破綻してしまい、その後は推して図るべしである。
 フランチェスカは本を胸に抱き、キリッとした表情でアンナを見つめる。

「シドニアにはまだまだポテンシャルは残されているわ。初代国王がその体を癒したと言われる温泉と風光明媚で豊かな自然、川だけでなく海も近い立地とおいしい魚介類。これを生かさない手はありません」

 するとアンナが軽く首をかしげる。

「なにか人を集める方法でも?」
「結婚式で領内をパレードしたときに思ったのだけれど、領民は娯楽に飢えているみたい。だからこの土地ならではのお祭りを開催してはどうかって思ったの。行ったことのない場所で楽しい祭りがあって、おまけに王都では見たことがないものが見られるとなれば、新しいモノ好きで刺激に飢えた人だって呼べるようになるんじゃないかしら?」

 国民あっての国、領民あっての領主だ。この土地に住む者たちに心豊かな生活を送ってもらわなければ、繁栄はあり得ない。
 そう、領主の妻として一番望まれていることはシドニアを豊かにすることだと、フランチェスカは理解したのだ。

「よし、がんばるぞ!」

 グッとこぶしを握って気合を入れるフランチェスカを見て、アンナはなにか言いたそうに口を開いたが「まぁ、どういうことであれあたしはお嬢様を応援しますよ」としたり顔でうなずくだけだった。
 この時点で、アンナはフランチェスカの気持ちの変化に気づいていた。

「これは、もしかしたらもしかするかもしれませんねぇ……」
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