絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 そんなフランチェスカの冷静な返答を聞いて、
「うっ……我ながらナイスアイデアだと思ったのにぃ~……」
 アンナはしおしおと打ちひしがれたが――そのアイデアは確かにすばらしいのではと、フランチェスカの意識にひっかかっていたのだった。



 それから数日後、ちょうどテオと話す機会があり『花祭りのイベントで芝居を上演する』というアイデアも出たという話をすると、
「劇場は作れなくても、野外のちょっとした舞台くらいなら数日で作れるんじゃないですか?」
 と言われて仰天してしまった。

「えっ、作れるんですか!?」
「俺が小さい頃家族で住んでいた町は、旅芸人も多く訪れる港町でしたからねぇ。芸人たちが突貫工事で、広場に舞台を作ってたもんです。祭りの期間はあちこちでそんな景色が見れられるんで、子供ながらワクワクしてましたよ」

 テオは父のダニエルではなく母親似らしい。垂れ目の優しげな人懐っこい笑顔を浮かべつつ、ささっと絵を描いて説明してくれた。

「舞台はそれほど大きくなくていいんです。背景は布に描いて、場面ごとにカーテンのように吊るして、掛け替えるだけで」
「なるほど……」

 テオの書いた紙を受け取り、まじまじと見つめる。

「でも、時期的に雨も不安じゃないですか?」

 これからシドニアは雨期に入る。

「だったらサーカスのように天幕を張るのはどうですか? 座席も作った方が、客も入れやすいと思います」

 テオは次から次にアイデアを出してくれた。

(サーカス……)

 脳内に三角屋根のテントが浮かぶ。
 その存在は耳にしたことがあるし、子供の頃大好きだった児童文学にもサーカスをモチーフにした作品もあった。ただ、舞台といえば王都にある大小の劇場や、オペラハウスしか知らなかったフランチェスカである。テオの説明する芝居小屋はまさにカルチャーショックだ。

「お芝居だって、別に何時間もやらなくていいんです。『見取り』とか言ったかなぁ……。以前、東方の小さな島国の芝居を見たことがあるんですが、一番面白い部分を切りとってそこだけ上演する手法があるんです。たとえばかたき討ちのシーンだとか、義賊が悪徳商人の屋敷から宝を盗み出すところとか」
「いきなりクライマックスってことですね。じゃあお芝居が始まる前に、登場人物やあらすじの説明があったりするんですか?」
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