絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
「もちろんです。ちょっと気の利いたところだと挿絵付きのビラを配って、芸人にお芝居の前に面白おかしく説明させたりしていましたよ」
「へぇ……」

 話を聞けば聞くほど、テオの話はフランチェスカの好奇心をくすぐった。

 もし自分がお芝居の原作を書くとしたら、どんな男にどんな役を演じてもらう?
 自分の本の読者も喜んでくれて、なおかつシドニア領で暮らす人たちが楽しんでくれるようなお話はなんだろう。

 頭の中を火花のような光が散る。
 ばちばちと音を立てて、フランチェスカの脳内を駆け巡る。
 そして瞬時にそれは形を結び、明確な輪郭を描いていた。

 全身がぶるぶると震え始める。まさかの武者震いだ。

「フランチェスカ様?」

 急に黙り込んでしまったフランチェスカを見て、テオが首をかしげる。一瞬、意識が飛んでいたことに気が付いて、フランチェスカは慌てて椅子から立ち上がった。

「やれる気がしてきました。いえ、やりましょう、お芝居っ!」
「えっ!」

 テオが驚いたように目を丸くした。

「作家にはあてがあります! その……王都にいた頃の知り合いに、作家がいるので! その人に頼んで、脚本を書いてもらいます!」

 しばらく書いてなかったが、これこそBBの出番ではないか。
 お芝居で見どころだけ上演するなら、長い小説でなくてもいい。
 なおかつシドニアの領民たちに向けて上演するなら、これしかないと思う題材も頭に思い浮かんでいる。
 一度思いついたらいてもたってもいられなくなった。

「そうと決まれば企画書を作って持ってきますので、今日は失礼します!」

 フランチェスカは小さく会釈すると、淑女らしからぬ怒涛の勢いでケトー商会を後にしたのだった。
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