絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
フランチェスカやジョエルは『シュワッツ砦の戦い』で起こったことを奇跡だと思っているが、実際は逃亡戦だ。前線に立っていた者たちからすれば、あまりいい思い出ではないのかもしれない。
だが次の瞬間、ルイスはパッと顔を明るくして、「まさか!」と声をあげていた。
「俺たちが芝居の題材になるんでしょう? 断る理由なんかないですよ! っていうか俺だけじゃなくて、当時いた兵士たちにも話を聞いてやってください」
「いいの?」
「勿論ですっ」
ルイスはぐっと親指を立ち上げて見せた後、テーブルに身を乗り出すようにしてニヤリと笑う。
「作家さんに、俺のことめちゃくちゃカッコよくしてくれって頼んでくださいね」
「ええ、勿論よ。その……BBとは親しいからなんでも言えるわ」
「――なんでも?」
ルイスが不思議そうに軽く首をかしげる。
「ええ、なんでも」
だってBBは自分なのだから。
フランチェスカは力強くうなずいた。
マティアスが屋敷に戻ったのは、深夜だった。馬車から降りて屋敷を見上げると、フランチェスカの部屋に煌々と明かりが灯っている。
(彼女はまだ起きているのか)
いきなり部屋に訪れて『おやすみのキス』をねだられた夜から、はや二週間ほどが経っていた。あれから毎晩マティアスはフランチェスカの額にキスしていたのだが、ここ何日かは、ぱたんと訪れがなくなっていた。
最初は彼女の額に口づけることに戸惑っていたくせに、いざ姿を見せなくなると、フランチェスカが来ない理由が妙に気になってしまう。
(俺は彼女になにかしてしまったのだろうか……いや逆になにもしてない気がするんだが)
と、悶々としている。気になるくらいなら自分から尋ねればいいのだが、それが出来るなら苦労はない。
(そもそも、俺を気に入らなくなったのなら、王都に戻ってもらえばいいだけの話だしな)
彼女は貴族で、自分は『荒野のケダモノ』『野良犬』なのだから。
そう、頭ではわかっているのにモヤモヤが止まらない。
玄関で出迎えたダニエルに脱いだコートなど手渡していると、
「マティアス様!」
手に紙の束を持ったフランチェスカが、エントランスホールにある螺旋階段をすごい勢いで駆け下りてくるのが見えた。
「フランチェスカ」
天使が金色に輝きながら近づいてくるのを見て、マティアスの胸の奥の心臓が乙女のように跳ねあがる。あんな勢いで走って、階段から転げ落ちてけがをしたら大変だ。
考えるよりも先に体が動いていた。発作的に手を差し伸べたところで、彼女は当たり前のようにマティアスの胸に飛び込んでくる。
だが次の瞬間、ルイスはパッと顔を明るくして、「まさか!」と声をあげていた。
「俺たちが芝居の題材になるんでしょう? 断る理由なんかないですよ! っていうか俺だけじゃなくて、当時いた兵士たちにも話を聞いてやってください」
「いいの?」
「勿論ですっ」
ルイスはぐっと親指を立ち上げて見せた後、テーブルに身を乗り出すようにしてニヤリと笑う。
「作家さんに、俺のことめちゃくちゃカッコよくしてくれって頼んでくださいね」
「ええ、勿論よ。その……BBとは親しいからなんでも言えるわ」
「――なんでも?」
ルイスが不思議そうに軽く首をかしげる。
「ええ、なんでも」
だってBBは自分なのだから。
フランチェスカは力強くうなずいた。
マティアスが屋敷に戻ったのは、深夜だった。馬車から降りて屋敷を見上げると、フランチェスカの部屋に煌々と明かりが灯っている。
(彼女はまだ起きているのか)
いきなり部屋に訪れて『おやすみのキス』をねだられた夜から、はや二週間ほどが経っていた。あれから毎晩マティアスはフランチェスカの額にキスしていたのだが、ここ何日かは、ぱたんと訪れがなくなっていた。
最初は彼女の額に口づけることに戸惑っていたくせに、いざ姿を見せなくなると、フランチェスカが来ない理由が妙に気になってしまう。
(俺は彼女になにかしてしまったのだろうか……いや逆になにもしてない気がするんだが)
と、悶々としている。気になるくらいなら自分から尋ねればいいのだが、それが出来るなら苦労はない。
(そもそも、俺を気に入らなくなったのなら、王都に戻ってもらえばいいだけの話だしな)
彼女は貴族で、自分は『荒野のケダモノ』『野良犬』なのだから。
そう、頭ではわかっているのにモヤモヤが止まらない。
玄関で出迎えたダニエルに脱いだコートなど手渡していると、
「マティアス様!」
手に紙の束を持ったフランチェスカが、エントランスホールにある螺旋階段をすごい勢いで駆け下りてくるのが見えた。
「フランチェスカ」
天使が金色に輝きながら近づいてくるのを見て、マティアスの胸の奥の心臓が乙女のように跳ねあがる。あんな勢いで走って、階段から転げ落ちてけがをしたら大変だ。
考えるよりも先に体が動いていた。発作的に手を差し伸べたところで、彼女は当たり前のようにマティアスの胸に飛び込んでくる。