絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
夫の思いと妻の願い
己の恋を自覚したフランチェスカは悩んでいた。
「どうしよう……私、毎日マティアス様のことを素敵だなって思ってしまうのだけれど」
アンナがフランチェスカの髪を梳きながら、呆れた顔で首の後ろに濃紺のリボンを結ぶ。
「思っているだけでは伝わりませんよ。好きになってもらおうと思ったら全力でぶつかっていきませんと」
「それはそうね。マティアス様からしたら、私はいずれ王都に返そうと思っているくらいの妻ですもの。私はあなたの妻をやめるつもりはありませんって、主張しないと何も変わらないわよね」
領主の妻として有能であること、なおかつひとりの女性としてマティアスのことを好ましく思っていて、普通の夫婦のようになりたいとわかってもらうこと。
それが目下、フランチェスカの目標になっていた。
「さ、できましたよ。お嬢様は男装なさっても美少女ですが、これはこれで妖しい魅力があって最高ですね。ふふっ」
りぼんの形を整えたアンナは満足げにそう言うと、励ますようにフランチェスカの背中を叩く。
「どんな女でも、好かれて悪い気がする男はいないと言いますからね。そのお嬢様の美貌でもって、マティアス様をコロッと転ばせてしまえばいいんですよ」
「そんな無茶ばかり言って」
男装姿の自分に夫が自分にコロッとされても困るのだが、アンナの適当な軽口を聞いているとまぁ、気楽にいこうか、と思えてくるのが不思議だ。
「じゃあマティアス様のお部屋に行ってくるわね」
フランチェスカは化粧台の椅子から立ち上がり、スタスタと廊下の奥のマティアスの書斎へと向かった。
(ズボンって歩きやすいのねぇ……なにより軽いのがいいわ)
白いシャツにこげ茶色のズボン、そして足元は乗馬ブーツ。長い金髪は後ろで一つにまとめているだけの簡素な格好だが、衣装が出来上がるまではこれで練習をすることになっている。
フランチェスカはマティアスの部屋の前で背筋を伸ばすと、軽くドアをノックした。
「マティアス様。フランチェスカです。お芝居の稽古に来ました」
そう言い終えるやいなや、ドアが開く。
「どうしよう……私、毎日マティアス様のことを素敵だなって思ってしまうのだけれど」
アンナがフランチェスカの髪を梳きながら、呆れた顔で首の後ろに濃紺のリボンを結ぶ。
「思っているだけでは伝わりませんよ。好きになってもらおうと思ったら全力でぶつかっていきませんと」
「それはそうね。マティアス様からしたら、私はいずれ王都に返そうと思っているくらいの妻ですもの。私はあなたの妻をやめるつもりはありませんって、主張しないと何も変わらないわよね」
領主の妻として有能であること、なおかつひとりの女性としてマティアスのことを好ましく思っていて、普通の夫婦のようになりたいとわかってもらうこと。
それが目下、フランチェスカの目標になっていた。
「さ、できましたよ。お嬢様は男装なさっても美少女ですが、これはこれで妖しい魅力があって最高ですね。ふふっ」
りぼんの形を整えたアンナは満足げにそう言うと、励ますようにフランチェスカの背中を叩く。
「どんな女でも、好かれて悪い気がする男はいないと言いますからね。そのお嬢様の美貌でもって、マティアス様をコロッと転ばせてしまえばいいんですよ」
「そんな無茶ばかり言って」
男装姿の自分に夫が自分にコロッとされても困るのだが、アンナの適当な軽口を聞いているとまぁ、気楽にいこうか、と思えてくるのが不思議だ。
「じゃあマティアス様のお部屋に行ってくるわね」
フランチェスカは化粧台の椅子から立ち上がり、スタスタと廊下の奥のマティアスの書斎へと向かった。
(ズボンって歩きやすいのねぇ……なにより軽いのがいいわ)
白いシャツにこげ茶色のズボン、そして足元は乗馬ブーツ。長い金髪は後ろで一つにまとめているだけの簡素な格好だが、衣装が出来上がるまではこれで練習をすることになっている。
フランチェスカはマティアスの部屋の前で背筋を伸ばすと、軽くドアをノックした。
「マティアス様。フランチェスカです。お芝居の稽古に来ました」
そう言い終えるやいなや、ドアが開く。