推しの歌い手さま~想像してたのと違うんだが…~
痛みを堪えて斜面を登ると、亜美、担任の田中先生、保健の先生、体育の男性教師、数人の生徒達が集まっていて、座り込んだ穂香に向かって口々に言ってくる。


田中先生「大丈夫?」


保健の先生「右足を挫いた?」


痛いとか怪我をしたとかよりも、恥ずかしさが耐えられない穂香。


穂香(後ろを向いていて、滑り落ちたなんて私の不注意以外の何でもないから…)


穂香「大丈夫です……」


とりあえずこの場を凌ごうとするが、何人もの先生が集まって「じゃあ登りましょう」となるわけがない。


保健の先生「もう下山して病院に行きましょう」


体育の先生「俺が背負って下山してやるから帰ろうな?」


亜美も心配そうに、穂香を覗き込む。


亜美「無理しない方がいいんじゃない?」


その場にいる全員が穂香は帰ろうという雰囲気。
足の痛みよりも、みんなで山頂に登れない悲しみで落ち込んでいく穂香。


穂香「私だって山頂から景色を見たいのに……私だけ帰るの……?みんなとの思い出が1つなくなっちゃう……
頑張れば登れるよ……」


捻挫した足を引き摺れば登れるという主張だが、やはり通らない。


保健室の先生「無理して酷くなったら困るからやめておきましょう」


すると亜美が少し嬉しそうに、穂香の肩をポンポンと叩く。


亜美「私も一緒に帰ってあげるからさ?」


穂香はそんな亜美を見て思った。

山登り
帰りたい人
現れる


穂香(よくできました。じゃなくてっ!!
一緒に登りたいのに……登れる雰囲気じゃないよね……
航太くんがいれば、俺が背負ってやるよって言ってくるのかな……?)


心のどこかで航太を美化している穂香の耳に、あの独り言が聞こえてくる。


航太「山登りきついなぁ……そろそろ帰りたいなぁ……」


穂香は嬉しそうに顔を上げる。


穂香「航太くんっ!!」



(第4章。春の遠足前編。終了)



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