推しの歌い手さま~想像してたのと違うんだが…~
第5章~春の遠足。後編~
○山登りを始めて間もない山道。穂香か怪我をして先生や生徒達が集まっている現場。
遠足に遅れてやって来た航太が、不思議そうに穂香を見る。
航太「んっ?何してんの?」
穂香「ここから滑り落ちちゃって、足を捻挫したんだ……」
穂香が落ちた場所を指差したり、右足を捻挫したことを身ぶり手振りで説明する。
それを見ていた航太が、穂香の元に歩み寄り視線を合わせるように屈む。
航太「ほーん。で……俺が穂香ちゃんを背負って山に登れって?」
穂香「そんな事思ってないよー」
そう否定するが、航太のその言葉を期待していた。
穂香(少女漫画なら登ってくれるよね?先輩に絡まれたのを助けてくれたり、声が出なかったら代わりに歌ってくれたり。独り言が多くて変だけど、いざって時は頼りに……)
穂香がそこまで妄想を働かせた時、航太が目の前で泥だらけの地面にあぐらをかいて座った。
航太「ちょうど疲れてたし良かった。先生?俺が穂香ちゃんを連れて帰ります」
穂香(少しでも期待した私がバカだった……)
穂香は目を丸くして、驚いた様子で先生達の顔を見る。
田中先生「お任せしてもいい?」
保健の先生「親御さんに連絡しておくから、家まで送ってあげてくれる?」
それを見て穂香は何も言葉が出なかった。
穂香(こういう時だけ物分かりのいい大人達っ!!
先生だって他の生徒を見なければいけない。わかってる。わかってるけど……
私だって女の子ですよ~?
男の子と二人きりはマズくないですか~?)
そんな事を思っても、先生も生徒達も山に登る準備を始めてしまう。
亜美はクスクスと笑った後、穂香の耳元で囁いてきた。
亜美「邪魔しちゃ悪いから、私も山登りしてくるね?」
穂香「ちょっ……ちょっとっ!!亜美っ!!本気で怒るよ?」
亜美は笑いながら、手を振ってその場を後にした。
(山登りを始めて間もない山道。穂香か怪我をして先生や生徒達が集まっている現場。終了)