推しの歌い手さま~想像してたのと違うんだが…~
○山を登り始めて間もない山道。
航太と二人きりになってしまった穂香。
航太はしばらく穂香を見つめて、小さく呟く。
航太「なんかドロドロで土偶みたい……」
穂香「亜美もそんなことを言ってたよ。まさかリアル土偶になるとは思わなかったけど……」
穂香が手で泥を払っても、ドロドロなのは変わらない。
すると航太が自分の背負っていたリュックから、黒のTシャツとスウェットの黒いズボンを出した。
航太「これに着替えたら?」
穂香は着替えなんて持ってきていない。
もちろんドロドロになるなんて思いもしなかったのだから。
航太から着替えを手渡される穂香は困惑した表情。
穂香「えっ?でもこんな場所で着替えられないし……」
航太は生い茂った草の方に、指を指した。
航太「そこで着替えればいいじゃん」
座ったままの穂香は渡されたTシャツとズボンをギュッと掴んで、怒鳴り散らす。
穂香「そ、そんなことできるわけないじゃんっ!!誰かに見られたらどうするのっ!?バカじゃないのっ!!」
すると航太は穂香に背を向けて呟く。
航太「元気そうで良かった」
穂香「航太くん……」
穂香(元気がない私をわざと……からかったの……?)
そう思うと穂香は感激で涙が溢れて、後ろから抱きつきたい気持ちになってしまう。
しかし航太は話には続きがあった。
航太「そんなに山登り好きなの?」
穂香は渡された着替えを、航太の背中に投げる振りをして叫んだ。
穂香「ちがいまーーーすっ!!」