推しの歌い手さま~想像してたのと違うんだが…~


その時、バタバタと走ってくる足音と「どいてくださーいっ!!飛行機に乗りたいでーすっ!!」という声が聞こえた。


リュウ「駆け込み乗車なんてする人いるんだね?」


穂香「今からでも間に合うんでしょうか?」


そんな話をしながら振り返ると、走っているのは航太だった。


穂香はすぐに航太の元へ走り出す。


穂香「航太くんっ!!」


航太「穂香ちゃんっ!?」


ただもう時間がなく、航太は走るスピードを緩めるが、止まってはくれない。

航太の視線はリュウの姿を見ている。


航太「今日もリュウと一緒にいたんだ?仲良いの?」


穂香「えっと……」


穂香は「今日も」という言葉に戸惑い、足を止めてリュウの方を見るために後ろを向く。


穂香(いつどこで見られたの?
美容室ならいいけど……ナンバの時だったら?
私がもし航太くんが綺麗なお姉さんにナンパされて、ついていくのを見たら軽蔑しちゃう……。
だから留学の事を言ってくれなかったの……?
だから観覧車で告白してくれなかったの……?
でもリュウさんのせいなんかじゃない。
今ここにいるのだって、リュウさんのおかげだし……
でも航太くんに、勘違いされたままお別れなんて嫌だっ!!)


数秒で混乱するほど、頭の中に複雑な想いが溢れてくる。


穂香が航太を見ると、もうゲートを越えて下りのエスカレーターに乗ろうとしていた。


穂香は慌ててゲートの前まで走って、恥ずかしげもなく涙を流しながら笑顔を作って、大声で叫んだ。


穂香「リュウさんはお友達だよっ!!私は航太くんの事が大好きーーーっ!!外国でも頑張ってねーっ!!」


穂香(きっと私が泣いたら、航太くんも悲しくなる。だから笑顔でバイバイで合ってるよね?)


すると航太はニコッと微笑んで、エスカレーターに乗って行った。

航太に聞こえたかどうかはわからない。

ただ穂香は一番伝えたかった「大好き」という気持ちを言えたので、少し満足な気持ちもあり、涙を拭って笑顔を見せた。



(空港のターミナルビル。搭乗口終了)



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