甘い罠、秘密にキス
桜佑が準備をしている間、正直言うと物凄く不安だった。あの時の藤先輩の言葉が、どうしても脳裏をよぎるから。
だけど桜佑が俺を信じろって言ってくれたから、不安を悟られないようその時を待つ。
「伊織、力抜いて」
緊張でガチガチに固まっている私の頬に、キスを落とされる。
平静を装っていたつもりなのに、桜佑はまるで私の不安を汲み取っているかのように「大丈夫だから」と囁くと、そっと自身を当てがった。
「……ふ、ぅっ…」
じわじわと襲ってくる圧迫感にくぐもった声が漏れ、シーツを握る手に力が入る。指とは比べ物にならないほどの質量が一気に私の中を支配して、頭が真っ白になる。
さっきまで不安でいっぱいだったはずなのに、気付いた時には桜佑のことしか考えられなくなっていた。
「伊織、全部はいったぞ」
痛くないか?と、大きな手で頭を撫でられ、ぎゅっと瞑っていた瞼を恐る恐る押し上げた。ぼやけた視界の中、不安そうに私を見つめる桜佑と視線が重なる。
「…だい、じょぶ…」
途切れ途切れに返事をすると桜佑はほっとした表情を見せ、そのまま私の唇を奪い「動いていいか?」と耳元で囁いた。
こくりと小さく頷くと、桜佑は私を抱き締めた体勢でゆっくりと動き始める。
するとたちまち身体が反応して、奥を突かれると上擦った声が漏れた。
指でも充分気持ちいいと思っていたけれど、もう何もかもが違う。刺激される度に下腹部がきゅっとするし、とにかく桜佑の体温が心地よくて安心する。怖くなるほどの快感に、溺れそうになる。
「おう、すけ…」
「ん?」
短い息を繰り返しながら何とかその名前を呼ぶと、桜佑は動きを止めて「どうした?」と目を合わせる。
その表情にいつもの余裕はなくて、少し乱れた前髪の隙間から覗く瞳は、酷く熱を孕んでいた。
「桜佑も、気持ちいい…?」
桜佑の頬に手を添えて、彼の熱を感じながら問いかける。
「私だけじゃない…?」
感じているのは私だけで、桜佑を満足させられていなかったらどうしよう。
“お前デカいし色気もないし、すげー萎えそう”
不意に、あのナンパ男の言葉を思い出して不安になり、思わず口にしてしまったけれど。
「うん。良すぎてどうにかなりそう」
桜佑が真っ直ぐ私を見つめながら優しく目を細めてくれるから、嬉しくて泣きそうになった。