甘い罠、秘密にキス

「突き指した?」

「そんな大したものじゃないよ。ちょっと打っただけ」


桜佑の熱に触れたせいか、せっかく落ち着いていた心臓が、再び激しく音を立てはじめる。


「ごめん、心配かけて。このくらい何ともないから」


桜佑って、私の怪我にめちゃくちゃ敏感だ。この間の清掃作業の後もそうだった。

そういえば、昔は私が怪我をする度に保健室に連れて行ってくれてたっけ。
その時はなんとも思わなかったけど、桜佑ってほんと、昔から私のことをよく見てくれていたんだな。


「お、桜佑、もう大丈夫だからその手を…」

「なぁ伊織」

「うん?」


あまりの距離の近さに心臓が持たなくなりそうで、耐えきれず声を掛けると、遮るように重なった桜佑の声に、弾かれたように顔を上げた。

すると真剣な表情の桜佑と視線が重なって、思わず息を呑んだ。


「俺の勝ち」

「……」


いつの間にかゲームは終了していたらしい。
点滅で表示されている得点を確認すると、それはそれは悲惨な数字が並んでいた。


「……今のはノーカンでは?」

「認めません。お前の負け」

「甘えさせてくれるんでしょ?」

「勝負の世界はそんな甘くねえよ」


鬼だ鬼。桜佑が私の手を取らなかったら、そのまま続けられていたというのに。

まぁ続けていたところで、恐らく負けていたと思うけど。


「罰ゲーム、考えとくわ」

「……」


本当に狡い男だ。

どうか可愛らしい罰ゲームでありますようにと、心の中で何度も願った。
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