甘い罠、秘密にキス
「なんで桜佑に勝てないのかなぁ」
はぁ、と溜息を吐きながら、ふと自販機の前で足を止める。
「罰ゲーム、缶コーヒーじゃだめ?」
「お前はほんと懲りねえな。すぐ奢ろうとすんな」
簡単な罰ゲームで済ませたくて提案したのに、アッサリ断られてしまった。おまけに「次にまた変な行動起こしたら、速攻婚姻届だから」と脅され、ぞくりと背筋が震えた。
この男、本当に今すぐにでも婚姻届を用意しそうだから油断できない。ここからはもう少し慎重に行動しなくては。
「ついでに何か飲むか」
ふいに繋いでいた手を離した桜佑は、自販機に視線を向けたまま「お前何にする?」と尋ねてくる。「…水で」と控えめに答えると、水のボタンを押した桜佑は出てきたペットボトルを私に差し出してきた。
「ありがと…」
「ん」と返事をした桜佑は、今度は自分の飲み物を選び始める。その整った横顔を眺めながら、さっきのシュートを放つ姿を思い出していた。
「もう少しいい勝負が出来ると思ったんだけど…アクシデントがあったにしても、あんなにぼろ負けするとは。桜佑ってほんと、昔から何でも出来るよね」
「惚れた?」
「…格好良いとは思った」
「え…?」
まさか私が素直に返事をすると思っていなかったのか、桜佑が目を見開いてこっちを見てくる。
その顔は少し間抜けで、思わず笑ってしまいそうになる。
「それって惚れたってことじゃなくて?」
「なんでそうなんの」
「そうなるだろ」
この男、どれだけポジティブ思考なの。