甘い罠、秘密にキス

「私知ってるんだからね。桜佑が昔、バスケだけじゃなく色んなスポーツの練習をコソコソ隠れてしてたの」

「……」

「あれだけ努力してたら、そりゃあ上手くもなるよ。だからその努力も含めて格好良いってことで、惚れたとかではなく、褒めてあげてるっていうか…」

「なんだそれ」

「あ、もしかして私に勝つために努力してた?桜佑って昔から罰ゲームとか好きだから…」

「そんなことのために俺が必死になるわけねえだろ。お前には練習なしでも勝てる自信あるし」

「なんですって?」


いやまぁ生まれ持っての才能もあるし?確かにそうかもしれないけど?その余裕な態度、昔の桜佑を思い出してついギロリと睨んでしまう。


「やっぱもう1回勝負を…」

「あのーそこのお兄さん達、ちょっといいですか?」


桜佑にもう1勝負挑もうとした時だった。後ろから聞こえてきた声に弾かれたように振り返れば、私達より歳が若そうな二人組の女性が、こちらを見上げながら立っていた。


「突然すいません。もしお暇なら一緒に遊びませんか?」

「さっきバスケのゲームをしていたところを、チラッと見かけたんです。めちゃくちゃ上手で、一瞬で目を奪われちゃって」

「あ、短時間とかでも全然いいんで」

「良ければ写真なんかも…」


矢継ぎ早に放たれる言葉に耳を傾けながら思ったのは、完全に私を男だと勘違いしてるってこと。

バスケのくだりは恐らく桜佑のことだろうけど、その後私達が手を繋いでいたところは見ていなかったのだろうか。

まぁ要するに、ナンパをされてしまったということだ。


「あの、申し訳ないですけど私女でして…」


言い慣れた言葉を並べて苦笑する。

隣にいる桜佑は、私が男性に間違えられるところを目の当たりにして、きっと心の中で笑っているだろう。


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