甘い罠、秘密にキス
「まだ?」
「今するから、そんなに急かさないで」
せめて目くらい瞑ってくれないだろうか。そんなに見られたら、緊張してめちゃくちゃやりづらいんだけど。
「…桜佑、ちょっと見すぎ。目閉じて」
「無理。照れてる伊織が可愛い」
私が恥ずかしがっていることに気付いているなら、なにもこんな所でさせなくてもいいのに。
もじもじと俯き気味に躊躇う私を見て、桜佑は「はやくー」と完全に楽しんでいる。
「早くしねえと人が来るぞ」
「…分かってるってば」
言い返した直後、下の方の階から微かに足音が聞こえてきて、ビクッと小さく肩が揺れた。
確かここは3階。足音は少し遠いから、恐らく1階だろう。
たん、たん、と一定のリズムを刻んだ足音が、徐々に大きくなっていくのが分かる。
ここに辿り着くまでに終えなければと、慌てて桜佑の頬にキスを落とすと「おいふざけんなよ」と低い声が鼓膜を揺らした。
「そこじゃねえだろ」
「この状況でよくそんなこと…」
「口じゃないと認めない」
「~~~っ!」
言い返したいけど、そんな悠長にしている場合ではない。この間にも、どんどん足音が近付いてきている。
意を決して桜佑の唇に触れるだけのキスをすれば「それだけ?」と、また不服そうな声が耳に届いた。
足音が大きくなってきているというのに、何故か余裕な表情を浮かべる桜佑。そんな彼とは反対に、恥ずかしさと焦りで半べそをかいている私は「もう勘弁して」と懇願する。
そんな私を見て、ふっと笑みを零した桜佑は「全然足りない」と呟くと、突然くるりと体を反転させ、今度は私を壁側に追い詰めた。
「え、まって、おう…」
理解が追いつく前に顎を掬い取られ、息を呑んだ瞬間に影が落ちた。