甘い罠、秘密にキス
どうやら足音の主はそのまま二階のフロアに行ってしまったらしい。いつの間にか足音は聞こえなくなっていて、代わりにリップ音が小さく響いた。
「…ぉ、すけ……だめ…」
逃げようとしても壁が邪魔して身動きが取れない。角度を変えては何度も落とされるキスに、自然と力が抜けていく。
昨日の余韻が残っているのか、口では抵抗しているけれど、身体は完全に受け入れているかのように桜佑の服を握りしめ応えていた。
「やっぱあのまま家にいればよかった」
「……デート、楽しくなかった?」
「そうじゃなくて、ずっと部屋でイチャイチャしとけばよかったってこと」
躊躇なく恥ずかしい言葉を並べた桜佑は、再び啄むようなキスを重ねる。さっきより少しだけ激しさを増した口付けに、吐息のような声が漏れた。
甘い台詞と熱いキスに翻弄され、ここが公共の場だということを忘れてしまいそうになる。
「…桜佑、…いい加減、やめようよ…」
ハッと我に返り、慌てて桜佑の胸を強く押して顔を背ける。けれどすかさず頬に手を添えられ、覗き込むようにして目を合わせてくるから、思わず息を呑んだ。
「嫌って言ったら?」
「…意味分かんない。さっきまで普通だったのに、なんで急にがっついてくんの」
「お前が可愛すぎて我慢出来なかった。これでも耐えてた方なんだけど」
私、さっき男に間違えられたんだよ?この男はその事をちゃんと覚えてんのかな。こんな色気のない私を求めるなんて、桜佑はほんとどうかしてる。
──だけど、この熱が触れた時、私はいつもより女になれる気がする。桜佑のそばにいると、不思議とコンプレックスを忘れられる。
私の身体はいつの間にか、この熱に酷く安心感を覚えてしまったようだ。