甘い罠、秘密にキス

「絶対帰さねえからな」


桜佑は耳元でそう呟くと、私の後ろにあるドアの鍵をかけた。

看病するために来たはずなのに、なぜか捕獲された気分になったけど、ここは大目に見よう。


「……それより食欲は?何か食べた?」


すかさず話題を変えると、桜佑は私の肩に顔を埋めたまま首を横に振る。


「おかゆなら食べられそう?」

「もしかして作ってくれんの?」

「そのつもりだけど…」


ただ、今までお粥なんて一度も作ったことがないから成功するかは分からない。自分が体調を崩した時は、いつもレトルトやフリーズドライのもので済ませていたから。


「嬉しい。全部食う」


まだ出来上がってもいないのに、やっと体を離した桜佑は嬉しそうに目を細める。体調が悪いせいか、私を映す目はとろんとしていて、いつもと違う柔らかい笑顔に、不覚にもドキッとしてしまった。


「と、とりあえずキッチン借りるね。調味料使ってもいい?多分時間かかるから、出来上がるまで桜佑はゆっくり寝てて」


靴を脱ぎながらつらつらと紡ぎ、さっそくキッチンに向かうため桜佑の横を通り過ぎようとしたけれど、今度は後ろから抱きしめられて、動きを封じられてしまった。


「ちょっと桜佑…」

「めちゃくちゃキスしたい」


ぎゅっと力を込められ、思わず息を呑む。桜佑の体温が高いせいか、私の身体まで熱を帯びていく。


「でも風邪うつしたくねえし」

「……」

「今したら多分止まんなくなるから、とりあえずこれで我慢する」


桜佑はそう言うと、私のこめかみにそっとキスを落とした。


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