甘い罠、秘密にキス

「寝てなくて大丈夫?体しんどくない?」

「全然。今日はお前に会えないと思ってたのにこうして一緒にいるから、いま身も心も絶好調。伊織ハイになってる」

「…なにそれ」


髪は少し乱れ、熱のせいか少し頬が火照っている桜佑はいつもより色気が増していて、それでいてくしゃりと笑うから、普段は見ることの出来ない無防備な姿に、不覚にも心臓を鷲掴みにされている自分がいる。

桜佑って、こんな顔して笑う人だったんだ。


「ほら、見といてやるからお粥作って」

「見てなくていいんだけどな…むしろ寝ながら待ってくれると非常にありがたいのだけど…」

「なんか一気に腹減ってきた。腹減り過ぎて眠気が消えた」

「目を閉じたら案外ぐっすり眠れるかもしれないよ?」

「いいから早く」


それとも一緒に作る?優しい声音で耳元で囁かれ、どくんと心臓が跳ねる。桜佑の熱がうつったんじゃないかってくらい、顔が熱い。


「面白そうじゃね?愛の共同作業」

「…バカ」


さっき桜佑が“結婚した気分になってきた”なんて言ったせいなのか、もし本当に私達が夫婦だったらって、らしくないことを想像してしまう。

私の両親は仲が良かったけど、普段父は家にいなかったから、両親が一緒にいるところをあまり見たことがない。でも普通の家庭は、こうして夫婦が並んで料理をしたりするのかな。

──そういう家庭、ちょっと憧れるかも。

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