甘い罠、秘密にキス

「…桜佑の理想の家庭像は?」


唐突な質問に、桜佑は私の髪に頬を擦り寄せながら「んー」と考える仕草を見せる。


「あんま具体的なもんはないけど」

「……」

「とりあえず隣に伊織がいてほしいかな」


自分から話を振ったくせに、返ってきた言葉があまりにもストレートで、思わず顔を真っ赤に染めてしまった。


「た、例えば子供は何人欲しいとか」

「伊織と俺の子供か。死ぬほど可愛いだろうな」

「こんな家に住みたいとか」

「そういうのは伊織と一緒に決める予定」


な、なんか思ってたのと全然違う。この人、怖いくらい私との未来しか見ていない。


「さっきから私のことばっかり…」

「どう?俺と結婚してみたくなった?」

「そ、そんな簡単に“はい、します”って言うわけないでしょ」

「なんでだよ、言えばいいだろ」


お前のこと幸せにする自信あんのになー。と続けた桜佑は、私の肩に顔を埋めて、息をするように「好き」と呟く。その仕草が妙に可愛く思えて、無意識に動いた手が桜佑の頭を撫でようとしたけれど、寸のところで何とか止まった。

だめだ、私また流されてる。相手は体調不良で弱っているはずなのに、完全に向こうのペースだ。

こういうことをサラッと言うのはいつものことだけど、今日の桜佑は甘えるように言ってくるからどうしても調子が狂ってしまう。


「…そんなに私がいい?」

「うん、お前しか無理」


いやもうこの会話が無理。恥ずかしすぎて小口切りにするはずのネギがみじん切りになりそう。


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