甘い罠、秘密にキス



「………どうぞ、召し上がってください」


なんとか完成したけれど、想像以上に粘り気が強くなったドッロドロのお粥を前に、最初からレトルトを買えばよかったと今更後悔している。


「わーうまそー」


明らかに棒読みの桜佑に何も言い返すことが出来ないのは、自分で見てもあまり美味しそうに見えないから。味はまぁただのお粥なんだろうけど、なんだろうな…とりあえず思い描いていたものにならなかった。

結局あのあと桜佑が隣に立って手伝ってくれたけど、その時にはもう手遅れで。更には、歪な形にカットされたりんごは茶色く変色してしまい、自分で全部食べてしまおうかと思った。

りんごって切ると酸化するんですね。桜佑に「塩水に漬けるといいらしい」とアドバイスされて、目が点になりましたよ。

何から何までダメダメで、肩を落とす私に「食っていい?」と平然と尋ねてくる桜佑。むしろ食べない方が身のためでは?と思ったけれど、桜佑は私が返事をする前にスプーンを手に取った。


「なんかごめん…」

「なにが」

「おかゆもまともに作れない女とか、さすがに呆れたでしょ」


お粥を口に運んだ桜佑を恐る恐る見つめながらぽつりと呟くと、彼はそれを飲み込んだあと、ふっと口元を緩めた。


「伊織が俺のために作ってくれたのに、呆れると思うか?」

「……」

「普通に美味いから安心しろ。そしてこの弾力、多分一生忘れないだろうな」

「…それ、褒めてないよね」

「褒めてる褒めてる。伊織が食べさせてくれたら、もっと美味くなるとは思うけど」

「それは無理かな」

「ケチ」

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