甘い罠、秘密にキス
「桜佑のこと、仕事の面でも頼りにしてるんだよ。日向リーダーは、うちの営業課に欠せない存在なんだから」
「……」
「だから早く元気になってよね」
「……ん」
「あ、そうだ。冷蔵庫の中に飲み物やゼリーを入れておいたから、お腹が空いたら食べてね。一応おかゆも余ってるけど…あれはもう食べない方がいいかも」
苦笑する私に、桜佑は「全部食うよ」と優しく目を細める。続けて「伊織」と私の名前を呼ぶと、いつもより熱い手でそっと私の手を取った。
「好き」
たった一言。その2文字の言葉が、私の心を大きく揺さぶる。桜佑の言葉は、たまに魔法みたいに、私の心を掻き乱す。
「……うん」
なんと答えたらいいのか分からず、桜佑の手を握り返しながら頷くと、桜佑は満足気に口角を上げた。
「何かあったらすぐに連絡してね」
私の言葉に、桜佑は目を閉じたまま「うん」と頷く。
そしてその数分後、どうやらやっと深い眠りについたらしく、桜佑から規則正しい寝息が聞こえてきた。
少し寝苦しそうな桜佑の髪をそっと撫でてから、荷物を手にして立ち上がる。そして玄関を出る間際、ふと視界に入ったある物に、思わず足を止めた。
(こんな所に飾ってる…)
見覚えのあるボールペン。キラキラとしたお揃いのそれは、玄関の棚の上で存在感を放っていた。
「桜佑が持つには、可愛すぎでしょ」
桜佑がこれを使っている姿を想像して、思わず笑みを零す。
なんだか無性に桜佑の体温が恋しくなったけど、そのまま静かに部屋を後にした。