甘い罠、秘密にキス
「頼むから、そういうのは俺の前だけにしろよ」
そっと唇を塞がれ、目を閉じた。どうやら私の気持ちは伝わったみたいで、桜佑は角度を変えながら何度もキスを落としてくる。
熱く、とろけそうなキスに身体が痺れる。まだキスだけなのに、頭が真っ白になりそうだ。
「伊織、こないだの約束は覚えてるよな」
「……え?」
約束…って、なんだっけ。
「俺の風邪、完治した」
「……」
「てことは、朝まで…」
「ちょ、だめ、それはだめ。明日も仕事だし、すき焼きも食べたいから1回で…」
「俺よりすき焼きかよ」
ふっと吹き出すように笑った桜佑は「だったら、この1回を濃厚にするしかねえな」と、ゾッとする言葉をさらりと放った。
「濃厚…とは?」
「んー、例えば3時間くらいかけてするとか」
「なっ、さすがにそれは…」
「確かお前、体力には自信あるがあるって…」
「なんであんたは無駄に記憶力がいいの!?」
お前のことは何でも覚えてるから。と、にやりと口角を上げた桜佑は再び影を落とす。さっきより激しさを増したキスで、あっという間に力が抜けてしまった。
「伊織」と、時折私を呼ぶ声は心地よく、その目は優しい。
──桜佑のこんな表情、井上さんは知らないでしょ?
桜佑を見つめながら優越感に浸ってしまい、自分の性格の悪さに苦笑したけれど、そんな事を考えていられたのも最初だけで。
“濃厚”なその行為は、快感の波の連続で、私の思考は簡単に奪われてしまった。