甘い罠、秘密にキス
「…桜佑」
甘えるのが上手くなったと言われたからなのか、桜佑の腕の中にいる今なら、不思議と何でも話せる気がした。
少し身体を離し、上目がちに桜佑を捉えながら声を掛けると、指先に私の髪を絡ませて遊んでいた彼と視線が絡んだ。
「…実は私が桜佑の部屋から出ていくところを、井上さんに見られたみたいで…」
ぽつぽつと言葉を紡ぐ私に、桜佑は「へえ」と気の抜けた返事をする。どうやら桜佑は事の重大さを分かっていないらしく、特に驚く様子もなく私の髪で遊び続けている。
「あのね、一応婚約してることはバレてないけど、私達の関係を疑ってて」
「別に疑わせとけばいいだろ。てか変に探り入れられんのが嫌なら、婚約してるって言ってやろうか?」
「え、桜佑が言うの?井上さん、ショックで倒れないかな」
「なんで?」
「なんでって、それは…」
もしかしてこの男、井上さんの好意に気付いていないの?あれだけ大胆にアピールされているのに、少しも感じ取っていないってこと?
「だって井上さんは…桜佑のこと…」
待てよ、井上さんの気持ちを私がバラしてもいいのだろうか。私が井上さんの立場なら、絶対に嫌だぞ。
でもあれだけ積極的に攻めているのに、気付かれていない方が悲しいのかな。だとしたら、私が遠回しに伝える分には問題なかったり…?
「俺がなんだよ」
「だからその…桜佑のこと、絶対狙ってるから…」
「はあ?」
「はあ????」
目をぱちぱちさせる桜佑を見て、こっちまで目を丸くしてしまう。
なにこの反応。この人もしかして、自分のことになると鈍いの?
「全然そんな感じじゃねえと思うけど」
「そんなわけないでしょ。むしろめちゃくちゃ積極的だよ?どう見ても恋する乙女じゃん」
「そうか?恋というか、いつも目がギラついてて普通に怖ぇ」
「それだけ本気ってことだよ」
私がどれだけ説明しても、桜佑は「んー」と腑に落ちない様子。
まさか桜佑がここまで鈍感だなんて思わなかった。なんだか井上さんが可哀想に思えてきたわ。